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人生の幕開け

昼間に歩いた道をたどって、家に帰っているだけなのに。 さっきまで見ていた景色が、まるで違うように感じる。

きっと今、いつもと同じはずの景色が違うように感じるのは、これまでの自分ならきっとできなかった選択を、思いがけないタイミングでしたからだろう。

2時間前、いつも通り家を出て、友人との待ち合わせ場所に向かった私には、全く想像もできなかった未来がこれから待ち受けていた。

まだ信じられない気持ちと、自分の決断に驚きながらも、平常心を保ち、今日も職場に向かう。

思い起こすこと数週間前。専門学校で出会った友人から連絡が来た。 どうやら彼女は「バースデーランウェイ」というランウェイショーの運営に携わっているらしく、その講師をお願いできないかという依頼だった。

内容はランウェイショーを歩くモデルさんたちに体幹トレーニングを教えてほしいという内容で、ショーの内容はこれまで聞いたことがない形のランウェイショー。

「なんだか凄いことをしてるんだな」と、どこか他人事だった。 それでも、面白そうなイベントだったし、何か自分にできることがあるなら引き受けたいと思った。

レッスンの話を聞くために向かったのは、彼女とよく待ち合わせをするカフェ。

社会人になってからは、この日この時間に待ち合わせをするというよりは、彼女が私の家の近くに来るタイミングが合えば、会って話をすることが多くなった。

たとえそれが久しぶりの再会であっても、まるで昨日学校で会ったかのように、さくっと合流して、そのまま話し始めるのは、学生時代の頃から変わらないこと。

目の前に座る彼女が話すバースデーランウェイというイベントは、モデルさんの人生にスポットライトを当てるイベントらしく、 「素敵なコンセプトだなあ」と感動した。

きっとランウェイを歩くモデルさんたちは、キラキラ輝いているんだろうな。 そんなイメージが頭に浮かんできたとき、ふと彼女が「実は最近ひとりモデルさんが出られないことが決まって」と話し出した。

その言葉を聞いたとき、心に浮かんできたのは不思議な気持ちだった。


別に彼女は私のことを誘ってるわけではない。
それでも、今、心のなかに浮かんでる言葉を伝えたかった。


とはいえ、学生時代の友人に真面目に伝えるのもなんだか恥ずかしい。
でも伝えたい。ちょっとした葛藤を抱えた私は、話の流れで、「それなら、私が出たい」とおどけて伝えていた。


「え?本当に?出てくれる?」


驚いた顔で問いかけてくれる彼女は、早々にイベントの詳細について話をしてくれた。


気付いたらあっという間に時間は経ち、ソワソワした気持ちで自宅までの帰り道を歩いていた。


その日の夕方、職場に向かう電車の中で1通のLINEが届いた。


「ぜひモデルとして参加してほしい」


彼女から届いたLINEを見たとき、自分の手で、歩んでみたい未来を叶えられた気がして嬉しくなった。


今日の朝、ランウェイを歩く未来がやってくるなんて考えもしなかった。
数時間前までは、違う道を歩こうとしていた私にやってきた、突然の選択肢。


これまでの自分なら、やりたい気持ちに理由をつけて誤魔化してきた。
その気持ちを誤魔化さずに向き合えたから、掴めた未来かもしれない。


ふと、今年は自分で大切な選択をしている年だと思った。


私は今年、結婚をする。
ランウェイショーに出演が決まった今日と、当日では苗字が違う。
きっと住んでいる家も違うだろう。


これからの人生に不安もあるけれど、自分の気持ちは誤魔化さずに、大切な未来は自分の手で掴んでいこう。


バースデーランウェイの当日、きっと私は大きな一歩を踏み出せる。


「人生の幕開け」

創作・撮影:響あづ妙

※この小説はモデルさんのインタビューを元に創作しております。

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